家族のすれ違いを超えて。遺品整理の現場から見えた本当の課題

遺品整理作業をするイーブイ作業員の写真

遺品整理──それは、亡き人を見送ったあとの大切なプロセス。けれど、ただ物を片付ける作業ではありません。現場に立ち会ってきた私たちの実感として、この作業がいかに人間関係や感情に影響を及ぼすかを痛感しています。「片付ける」ことは、「向き合う」ことでもあるのです。

今回は、私たちイーブイが実際の現場で見てきた“家族のすれ違い”や“整理を通して変化する関係”についてお伝えします。


片付けは、物理的な作業だけではない

遺品整理の現場でまず感じるのは、「片付け=物を動かす」だけではないということです。

実際に作業にあたるのは、ご依頼者の中でも一人だけ──というケースが少なくありません。奥さんだけが何度も実家に足を運び、他の兄弟姉妹は遠方に住んでいて協力できない。中には、夫は仕事があるからと一切ノータッチという場面もあります。

そして、そうした中で現れるのが「口だけ出す親族」。

「そのタンス、残しておいて」「これは捨てないでほしい」

けれど実際に現場で分別し、粗大ゴミの手配をしているのは一人だけ。その人の心と身体の負担は相当なものです。

私たちは、作業だけでなく、そんな“背景にある葛藤”も見ながら仕事をしています。

思い出の品は、時に「争いの火種」になる

片見分けの場面では、意外なほど感情がぶつかります。

「このタンスだけは置いておいてくれ」 「でも、もう場所もないし、他の片付けが進まない…」

このように、残したい人と処分したい人の間で対立が起きるのは、珍しいことではありません。

特に、価値のある物や高額で購入した家具などは、「まだ使える」「高かったのに」といった思いが交錯しやすい。判断が感情に左右されるからこそ、遺品整理はただの“物の移動”では済まないのです。

だからこそ私たちは、作業前にご家族同士での話し合いの時間を持っていただくよう促すこともあります。

見落としがちな「貴重品と情報の整理」

遺品整理では、通帳、保険関係、印鑑、現金などの大切なものが一緒に出てくることもあります。

私たちは分別を徹底して作業することで、そうした貴重品を見逃さず、誤って処分するリスクを最小限にしています。

実は、この「分ける」作業こそが最も時間がかかる工程。けれど、それを丁寧にやるからこそ、ご家族にとっても安心感を持っていただけるのだと感じています。

第三者だからこそできる“役割”がある

私たち業者が現場に入る意味は、単に作業をすることだけではありません。

たとえば── 「本当はこうしたいけど、親族に言いにくい」 「誰かが中立の立場で話してくれたら助かる」

そんな声を受けて、私たちが“緩衝材”となることも多くあります。

「業者さんがこう言ってるから」 そう言えば、角が立たずに家族間の話が進むことも。

ただの第三者ではなく、経験に基づいて寄り添う“伴走者”として、関わる意味があると実感しています。

「完璧」ではなく、「納得」をゴールに

ご家族から「どこまで片付けるべきか?」というご相談をいただくことがあります。

でも私たちは、「完璧じゃなくていいんです」とお伝えしています。

正確に言えば、「完璧」ではなく「納得」こそが目指すべきゴール。

そのためには、「自分たちはどういう整理を望んでいるのか」 「どのように物と向き合いたいのか」

それを言語化する時間がとても大切になります。

自分たちで進めるための“スペース作り”から始める

最近では、「まずスペースだけでも作ってほしい」というご依頼も増えています。

実際に遺品整理をすべて業者に任せるのではなく、家族で思い出に向き合うための準備として、まず一部の部屋だけ片付ける──そんな選択肢もあります。

作業をすべて任せるかどうかは、状況に応じて柔軟に。

「どこから手をつけたらいいかわからない」 そんな時には、“まずスペース作りだけお願いする”という方法もあるのです。

片付けとは、思い出に向き合う時間。

私たちイーブイは、ただ物を処分するのではなく、ご家族の気持ちに寄り添う仕事を大切にしています。

たとえ作業は小さくても、家族の関係が少しほぐれるきっかけになったなら── それが私たちのやりがいであり、遺品整理という仕事の本質だと考えています。

「片付け」とは、過去と向き合い、未来への一歩を踏み出すこと。

そのお手伝いができるよう、これからも一軒一軒、丁寧に向き合っていきたいと思います。

投稿者プロフィール

二見 文直
二見 文直株式会社ウインドクリエイティブ 代表取締役
YouTubeチャンネル「イーブイ片付けチャンネル」運営者。
1984年大阪府生まれ。一般社団法人遺品整理士認定協会認定遺品整理士。生前整理技能Pro1級。
2010年よりリサイクル販売業界に携わり、2014年に独立。単なる不用品回収ではなく、お客様が笑顔で穏やかな生活に戻れるよう、丁寧で気持ちの良いサービスを目指し、2015年に「イーブイ(屋号)」を立ち上げ、関西を中心に不用品回収、ゴミ屋敷の片づけ、遺品整理などのサービスを提供している。

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