モノが溢れる現代社会の病理―「隠す」片付けの限界
「S字フックに物がぶら下がり、棚から溢れている」。多くの方が抱えるこの生活の停滞感は、単に収納が下手だからではありません。プロの片付け業者として1万件以上の現場を見てきた当社代表・二見文直(ふたみふみなお)は、その根本的な原因は「物が多すぎる」ことと、それに伴う「心理的な葛藤」にあると指摘します。
私たちはつい、整理収納本やグッズに頼りたくなりますが、これはモノの総量を減らさずに「隠している」に過ぎません。聖教新聞の取材で代表の二見が強調したように、片付けの真のゴールは、モノを移動させることではなく、まず「捨てる」ことで「空間(スペース)」を作り、心身の「再スタート」を可能にすることなのです。

1. 罪悪感との決別―記憶とモノを切り離すプロセス
片付けの最大の障壁は、「罪悪感」です。「もったいない」「まだ使えるかも」という感情が、思考を停止させます。特に遺品整理では、「服を捨てたら、故人との思い出が薄れるのではないか」という心理的な重荷が伴います。
二見は、この罪悪感こそが乗り越えるべき最初のハードルだと語ります。
「服を捨てたからといって、父との思い出が薄くなるわけではない」
これは、プロが提唱する「記憶とモノの分離」という重要な考え方です。思い出は心の中にあり、物理的なモノに執着する必要はないのです。
この心理的な抵抗を減らすために、「捨てる」という言葉を「手放す」「減らす」「卒業」といったポジティブな言葉に言い換えるだけでも、前に進む力が生まれます。フリマサイトの出品に労力を費やすよりも、まずはこの心理的な決断を優先することが、再スタートへの最短距離です。
2. プロ直伝:「動かない」片付け術の深い意味
片付けに慣れていない人が挫折する最大の理由は、「中断」です。
「これ、要る物だ」と別の場所に持って行ったり、思い出の品に触れて感傷に浸ったりすることで、集中力が途切れ、片付けそのものがストップしてしまいます。
二見が聖教新聞で紹介した「動かない」片付けの3ステップは、この中断を防ぐための心理的な集中テクニックです。
- ごみ袋を持つ
- 捨てる物をごみ袋に入れる
- 場所を動かない
スマホのタイマーを30分にセットし、この3ステップを厳守することで、脳が「今は判断と廃棄に集中する時間だ」と認識し、疲労や脱線を防ぎ、確実に成功体験を積み重ねることができます。
📌 失敗しないための戦略的エリア選定
どこから手をつけるかという戦略も、心理的な成功に不可欠です。
- 思い出や愛着の少ない場所から始める(玄関、廊下、キッチンの食品など)。
- 特に玄関や廊下は、ごみを運び出すための「動線」を確保するという、片付けの初期成功に直結する場所です。
3. 暮らしを停滞させる「隠れた邪魔者」の見切り方
片付けが進まない家には、共通して暮らしを停滞させている「邪魔者」が存在します。
- 段ボールの罠: 段ボールはゴキブリの棲家になりやすく、見た目だけでなく衛生面でも問題がある「隠れた邪魔者」です。真っ先に処分し、空間を浄化しましょう。
- 「いつか使うかも」の幻想: 捨てるか迷ったとき、自分に問うべきは「いつ使ったか」です。年1回使う物なら残していい。しかし、最後に使った時期が思い出せない物は、暮らしの停滞を招く「使わない物」だと見切りをつけましょう。
再スタートを切るためには、まず棚の奥や床に溜まったチラシ、レシート、空き箱といった、判断に迷わない「軽いモノ」から手放し、成功の勢いをつけることが重要です。
まとめ:無理をせず、楽して「居心地の良さ」を取り戻す
二見の片付け術は、決して無理をして完璧を目指すものではありません。
「一番上や下」といったおっくうな場所から手を付けるのを避け、手の届く中段から始め、その成功体験を上下に波及させる。また、物を「全部出す」という大変な作業はせず、一点一点確認し、捨てる決断を下す。
プロの知見は、「いかに楽をして、着実に、ストレスなく居心地の良い空間を取り戻すか」という点に集約されています。聖教新聞で紹介されたこのメソッドを実践し、モノと心に新たなスペースを作り、あなたの暮らしを再スタートさせましょう。
